■マコの傷跡■

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chapter 60




~ chapter 60 “考え方” ~

彼女は昔から、“いい子”だったらしい。
親にも親戚にも“いい子ね”と言われるような、素直で手のかからない子供。
子供のうちから親の思う通りに、親が困らないように、いい子で居るっていうのは
やっぱりどこか無理をしていたんだと思う。
自分がどうしていれば親がいいと思うのか、困らないのかと、そればかり気にしていると
他人を軸にしてしか物事を考えられなくなってしまうんだろう。
そのまま親元を離れると、その対象は親から友達や彼氏や上司や、その他たくさんの人にすり替わる。
親だけが対象だった時期とは違い、誰をその対象にしていいのかもわからなくなるし
100人居れば100通りの考えがあるのだから混乱してしまう。
100人居たら、その100人、1人残らず自分を嫌って欲しくないと思っていた時期が私にもある。
とにかく人に嫌われるのが怖くて、100通りの考えにいちいち合わせようとして八方美人になり
自分の考えが定まらなくなる。
いったい自分は本当はどう思っているのか、どうしたいのか。

彼女に「人に合わせるのでなく、自分の思った事をそのまま言えばいい」と言った。
彼女はそれがよくわからないようだったけれど
病院で「無理に合わせて言いなりになるようなのは友達じゃない」と言ったので
彼女は私への違う接し方を必死で探ってるようだった。
私は意識して、なるべく会話の中に「あんたはどう思う?」とか、
「あんたならどうする?」と、質問していくことにした。
彼女はきっと“自分がどう思うか”という考え方で今まで物事を捉えてきていないのだろう。
“どうすれば人が良く思ってくれるか”という考え方ばかりしていたから自分自身がわからないのだ。
最初のうち、彼女はしばらく考え「考えても自分がどう思うのか本当にわからない」と言った。
「そっか、まぁすぐに答え見つからなくてもいいんじゃない。
でもさ、ちょっとどう思うか考えてみてよ、なんかこうかなぁと思う事があったら教えてねっ」
焦ってはいけないと思ったので軽くそう言うと「うん、わかった」と言ってくれた。
ずっとやってきた事を急に変えるのは無理だ。でも少しづつ、自分について考える事が出来ればいい。

そのうち彼女は、時々すごく言いにくそうに「こう思う・・・・かな?」と自分の気持ちを伝え始めてくれた。
今までの様にそれを言う事で相手がどう思うかを考えたらとても怖かっただろうと思う。
私はこうしたい、こう思う、と言ってから「・・・なんちゃって!」と言ってみたりする。
それはもしも自分の気持ちを伝える事で悪く思われたとしても
冗談で済ませる様にする為の彼女なりの防御法だったんだと思う。
かなりの勇気が要る事だ。彼女はそれを必死でやろうとしてくれていた。
私相手に出来た事はきっと他の人にも出来るはず。
その第一歩、最初の相手になるのはとても嬉しい事だった。
自分の考えや思うことが、ない人なんてきっといない。
自分でよくわからなくても、上手く説明できなくても、それは見えないでいるだけ。
見えていなかった自分の気持ちや想いをずっと殺し続けて人に合わせていると
どこかで他人にもそれを望んだりする。
私はこれだけ人のことを考えて行動しているのにこの人は、と思うと相手が許せなかったりする。

“自分を許せないうちは他人も許せないものなのかも”と思った。
私は自分の昔を認めて受け入れる事が出来た後だったから、
彼女の事も受け止められたんだと思う。

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